研究者が決算書の読解に挑戦する
企業研究者に求められるものは多様かつ専門的
企業で研究をされている方の悩みの数々には,推し量るべきものがあります.
- 東芝は経営破綻で,有力だった研究所も縮小しているけれど,うちの会社では,自分の研究分野はいつまで存続されるだろうか.
- Googleのような圧倒的予算・人材を持つ研究所や,大学のような基礎力を持つ研究所には研究レベルで敵わない.一方,業界内のベンチャーにも,スピードで正直敵わない.うちの会社は業界内でどのように差別化戦略を取るべきだろう...
そうです.
企業研究者に求められるものは,技術分野の専門知識のみではありません.
業界マップを正確に理解・アップデートし,自社の取るべき技術戦略を提案するなど,情報収集能力や経営戦略に対する知識も求められます.技術戦略提案のプレゼンから,独自技術の特許申請・学会発表までこなす,いわば知の総合格闘技のような業種と言えます.
かといって,上に書いたような悩みを解決する研修を企業が実施しているかというと,十分ではないという印象があります.特に,業務で必要になる技術知識の獲得は十分でも,当面使用しない経営知識が獲得できていないという同僚をよく見かけます.
企業研究者のスキルアップのために:決算書を読む,という提案
かく言う私も,同業他者のポジションなど全く考慮せずに,これまで3年間,的が外れた研究テーマを考案し,取り組んできました.このままではまずいなぁと思っていたところ,立ち寄った書店で「100分でわかる!決算書「分析」超入門2017」のタイトルが目に止まり,興味からそのまま購入しました.
図解や例えが多く,わかりやすいのが特徴です.事前知識のほとんどない私でも,十分に理解することができました.
映画一本文(100分 )の時間で読める,というこの本ですが,内容がわかり安く,面白かったので2度読み直し,結果として合計4時間ほど費やしました.
そもそも決算書を読めることが,どのように企業研究者のスキルになり得るか?という疑問に答える必要があるでしょう.私の考えでは,
- 経営破綻前のSHARPや東芝の決算書を読み取る
→ 自分の会社が今,経営的に安全か危険かを判断する1つの方法になる - 同業他社の決算書を読み取る
→ 技術面のみでなく,経営面からも業界マップが描けるようになる
の2点で役に立つと考えています.
例えば,「SHARPは債務超過になる3年前に,5000億円規模の赤字を出していた」ことがわかれば,自社の純資産がSHARPよりも多く,かつ今年黒字であったことを確認し,少なくともあと2年程度は経営に不安はないだろうと判断できるかもしれません.
また,「同業他社の営業利益・研究開発費が自社よりも10倍大きい」ことがわかれば,既存製品の単純な性能向上では他社に負ける可能性があるので,自社は独自性のある技術を提案した方がいい,と判断できるかもしれません.
このように,決算書を読むことは,企業研究者にとって,現状分析の視点を1つ増やす効果があると考えています.
書籍の内容と効果
くり返しになりますが,今回読んだ本は,図解や例えが多く,非常にわかりやすかったです.「流動資産→脂肪」,「固定資産→筋肉」,「純資産→骨格」などと経営を人体の運動に例えることで,直感的な理解をサポートしてくれます.
また,最終章では,SHARP,オリエンタルランドなどの有名企業の決算書を例に,実際に解説があるのも特徴的です.ここまでくると,色々な企業の決算書を読むことが楽しくなってきます.
すでにあった効果としては,副次的なものも含めて
- 「売上総利益」「営業利益」「経常利益」などの用語の区別を直感的に理解することで,経済ニュースに対する苦手意識が小さくなった
- 同業他社の経営規模が理解でき,戦略に活かせた
- 自社の経営規模が大きく,安定したものであることが客観的に理解でき,無用な不安がなくなった
- 東芝の今期の決算発表が待ち遠しくなった( ̄ー ̄)
- 確定拠出年金に興味が湧いた
といったところでしょうか.
あなたも息抜きに,ちょっと違う勉強をしてみてはいかがでしょうか ^^