ビジネススクールでは学べない世界最先端の経営学②
この章の概要
- 作者: 入山章栄
- 出版社/メーカー: 日経BP社
- 発売日: 2015/11/20
- メディア: 単行本
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この本の2章目です.
競争戦略の誤解
「1つの万能な競争戦略は存在しない.いくつかの異なる競争戦略を,状況に応じて適切に使い分けることが大切である.競争戦略の適応範囲を誤り,むやみに適応すると失敗する.」という知見が紹介されています.
そもそも競争戦略とは?
競争戦略とは,「特定の業界・市場で,企業がどのような戦い方をしていくか」に関する戦略です.代表的な2つに,ポーターによるSCP(structure-conduct-performance)戦略と,バーニーによるRBV(resource-based view)があります.SCPの代表的なものには,ポジショニング戦略(「ライバルと比べて,自社がどのような製品・サービスを顧客に提供していくか」)があります.一方,RBVは,「企業の競争優位に重要なのは,製品・サービスのポジションではなく,企業の持つ経営資源(リソース)にある」と考える点でSCPと対照的です.RBVは,主に人材や技術に重点をおいた戦略を考えるものです.
2つの競争戦略の適応範囲は?
SCP,RBVは異なる競争戦略のフレームワークですが,どちらかが優れているというわけではありません.市場の状態が,次の3つの競争の型のどれか,により,使い分けることが有用です.
①IO(industrial organizatoin; 産業組織型)型
・業界構造が安定している状況.
・構造要因が企業の収益性に大きく影響する状況.
・例:コーラ飲料,シリアル,科学,鉄鉱石,日本のビール
・有効な戦略:SCP(「新規参入を阻む方法」,「競争を避ける方法」を考える)
②チェンバレン型
・①③の中間的な状況.
・差別化する力が重要となる状況.
・例:日本の国際競争力のある企業(自動車の高品質・信頼性・低燃費による差別化)
・有効な戦略:RBV(差別化を行うために技術・人材などの経営資源に着目する)
③シュンペーター型
・競争環境の不確実性が高い(「技術進歩のスピードが極端に早い」「新しい市場で顧客ニーズがとても変化しやすい」)
・例:IT業界(数年前:グリー,ミクシィ→LINE,twitter)
・有効な戦略:リアルオプション(少額・小規模ロット・短期間の開発で多数の製品・サービスを出す)
競争戦略を適切に使い分けられなかった例:日本家電メーカの海外進出失敗
国内市場はチェバレン型であり,RBV戦略が有効でした.例えば,優秀な技術者を育成し,技術を蓄え商品の差別化を行う戦略です.一方で,海外(中国・インド・東南アジア)の市場は,IO型でした.IO型市場では,低価格路線か,ブランド力で勝負するのかといったメリハリある戦略が必要となり,SCPが有効です.一方,RBV戦略から大きく戦略変更できなかった日本企業は,割り切ったポジショニングが取れませんでした.
このように,競争戦略には万能なものは存在しないため,勉強/成功経験した戦略フレームワークをむやみに使用するのは良い結果につながりません.フレームワークの適応範囲を正しく理解することが重要です.
成功しやすいビジネスモデルの条件
競争戦略とは別の話題として,ビジネスモデルの成功条件に関する分析についても紹介されています.
所感
私は機械学習・人工知能分野の研究者ですが,近年の深層学習技術の進展スピードは凄まじいです.従って,この分野は,競争の型で言えば③のシュンペーター型に当てはまるでしょう.上記の理解に基づくと,新規技術に求められる要素として,「見通しの良い差別化戦略につながっている」よりも,「状況変化に柔軟に対応するための,スピード・数の多さ」がより重要であると考えられます.この理解が組織の方針と一致しているか,上司と議論することにしました.
私は大企業の研究者です.組織が大きいため,新規ビジネスの実行には時間がかかります.したがって,同じアイディアを着想したら,実行スピードでベンチャーには負けてしまいます.新奇性のあるビジネスモデルを生み出すためには,自社ならではのビジネスモデルが必要です.このためには,まずは自社組織の特徴を理解する必要であると考えられます.「自社組織の特徴は何か」「自社の新規ビジネスモデルでは,自社のどのような特徴が活用されているか」という視点で報道を確認する習慣をつけることにしました.